大判例

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横浜地方裁判所 平成3年(ワ)252号 判決 1991年12月12日

原告

江井博夫

ほか一名

被告

大井啓照

ほか一名

主文

一  被告大井啓照は、

(一)  原告江井博夫に対し、金九七四万六六八六円及びうち金八九七万六六八六円に対する平成二年一月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告江井洋子に対し、金九〇四万六六八六円及びうち金八二七万六六八六円に対する平成二年一月二三日から支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

被告株式会社吉良工務店は、

(一)  原告江井博夫に対し、金一三九二万三八三七円及びうち金一二八二万三八三七円に対する平成二年一月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  原告江井洋子に対し、金一二九二万三八三七円及びうち金一一八二万三八三七円に対する平成二年一月二三日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その四を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告江井博夫に対し金一四五八万六三三一円及びうち金一三二八万六三三一円に対する平成二年一月二三日から支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告江井洋子に対し金一三四四万八五三一円及びうち金一二二四万八五三一円に対する平成二年一月二三日から支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

自動車同士の事故において、その一方に同乗していたために死亡した被害者の両親が、同乗車両の運転者及び相手方車両の保有者に対し、民法七〇九条、同七一九条及び自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事件である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成二年一月二三日午後八時四八分ころ

(二) 場所 横浜市旭区矢指町一一九四番地先路上

(三) 加害車両

(1) 普通乗用自動車(横浜三三な八三九九)

運転者 被告 大井啓照

(2) 普通乗用自動車(横浜七八て二四三七)

運転者 ウエルミング・アラチラゲ・レジノ・ウエラミング

保有者 被告 有限会社吉良工務店

(四) 被害者 江井友美(加害車両(1)に同乗)

2  事故の態様

被告大井は、自車(加害車両(1)、以下「大井車」という。)の助手席に被害者江井友見(以下「被害者」という。)を同乗させ、県道二五号線を茅ケ崎方面から丸子方面に向けて第二車線を進行中、本件事故場所である交差点に差しかかり、直進しようとしたところ、対向車両が右折しようとするのを発見したので、左に急ハンドルを切つた。そのため、大井車は、進行方向左側の電柱に自車の左側前部を衝突させ(以下「第一衝突」という。)、その反動で反転し、車両の前部を進行方向左側に向け、道路を塞ぐ形で路上に横向きに停止した。そこへ、進行してきた後続加害車両(2)(以下「吉良車」という。)が、大井車の助手席側部に衝突した(以下「第二衝突」という。)。

3  事故の結果

本件事故により被害者は、脳挫傷、頭骨複雑骨折、頭蓋内出血、骨盤等複雑骨折等の傷害を負い、死亡した。

4  責任原因

(一) 被告大井には、急ハンドルによつて、ハンドル操作を誤つた過失が認められる。

(二) 被告(有)吉良工務店(以下、「被告会社」という。)は、吉良車の運行供用者である。

二  争点

1  被告大井は、損害額を争い、好意同乗を理由とする減額を主張する。

2  被告会社は、第二衝突と死亡の因果関係(被害者は第一衝突で死亡したという。)及び損害額を争い、<1>自賠法三条の免責、<2>過失相殺(被害者本人の過失の外被害者と被告大井は身分上、生活上一体をなし、同被告に過失があるという。)、<3>被害者は第一衝突で瀕死の重傷を負つたから、被告会社の責任はそれを悪化させた限度に留まるとの主張をする。

三  争点に対する判断

1  因果関係

被告会社は、被害者は第一衝突により既に死亡していたものであるから、第二衝突と死亡の間には因果関係が存しないと主張する。しかしながら、証拠(甲三)によれば、被害者は第一衝突により直ちに死亡したわけではなく、事故後、聖マリアンナ医科大学に九日間入院し、平成二年一月三一日に至り、本件事故によつて被つた脳挫傷を原因として、同病院において死亡したことが認められるから、被告会社の右主張は理由がない。

2  損害額

(一) 被害者本人分

(1) 治療費〔請求額四九万一六九〇円〕 〇円

認めるに足りる証拠がない。

(2) 逸失利益〔請求額三三五七万二〇六二円〕 三三一四万五六四円

被害者は、死亡当時、一九歳の女子であつたところ(甲二)、本件事故により死亡しなければ六七歳までの四八年間就労が可能であつたと認められるので、平成元年賃金センサス第一巻第一表・産業計・企業規摸計・女子労働者・新高卒全年齢平均年収額の二六一万九〇〇〇円を基礎とし、そのうち生活費として三割を控除し、ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して、逸失利益の現価を求めると、次のとおりとなる。

2,619,000×(1-0.3)×18.077=33,140,564

(3) 慰謝料〔請求額一六〇〇万円〕 一六〇〇万円

本件事故の態様、事故当時の被害者の年齢、死亡に至までの経過、その他諸般の事情を考慮すると本件事故により同人の被つた精神的苦痛を慰謝するに足る金額としては、一六〇〇万円を相当と認める。

(4) 交通費〔請求額二万七〇〇〇円〕 二万七〇〇〇円

被害者の受傷の程度に照らすと、入院中の介護・待機に要した家族の交通費として、一日あたり三〇〇〇円を、相当な額と認める。

(5) 入院雑費〔請求額一万八〇〇円〕 九〇〇〇円

一日あたり一〇〇〇円を、相当と認める(九日分)。

(二) 原告博夫の損害

葬儀費用〔請求額一〇〇万円〕 一〇〇万円

弁論の全趣旨により認める。

(三) 相続

原告らは、被害者の両親であり(甲二)、同人の取得した前記損害賠償請求権を各二分の一の割合で相続した。

(1) 原告江井博夫の損害賠償請求権

<1> 被害者からの相続分 二四五八万八二八二円

<2> 原告江井博夫固有分 一〇〇万円

合計 二五五八万八二八二円

(2) 原告江井洋子の損害賠償請求権 二四五八万八二八二円

3  責任原因

被告会社は、自賠法三条但書による免責の抗弁を主張する。しかしながら、証拠(甲七及び八の各一・二)によれば、本件事故現場付近は最高速度時速五〇キロメートルの規制がなされており、吉良車の運転者ウエルミングは、第二衝突場所の手前約二四メートルの地点において大井車が自車の進路前方左側の電柱に衝突したのを発見したことが認められるところ、本件全証拠によるも、第二衝突につき同人に過失がなかつたものと認めることはできない。

4  好意同乗による減額

被告大井と被害者が婚約関係にあつたことは争いがなく、証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故当時、被害者は懐胎していた事実が認められる。このように、事故当時において被告大井と被害者とが将来を誓い合つた仲として極めて親密な関係にあつたことを考慮すると、同被告に対する関係では、損害賠償額の三割を減額するのが相当である。

5  過失相殺(被害者側の過失)

被告会社は、本件事故は被告大井の重大な過失によつて惹起されたものであり、被害者と被告大井とは婚約していたものであり、身分上も生活上も一体をなすものと評価することが出来、被害者も被告大井の無謀運転を中止させるべき義務を怠つたものであるから、被告会社に対する損害額を積算する場合大幅な過失相殺をすべきであると主張する。しかし、

(一) 被害者本人の過失については、これを義務づける事実を認定するに足りる証拠はない。

(二) 被告大井の過失、すなわち、いわゆる被害者側の過失について判断するに、民法七二二条二項にいう被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすと認められる者の過失、すなわち、いわゆる被害者側の過失をも包含すると解されるが(最高裁判所第一小法廷判決昭和五一年三月二五日)、婚約の場合には、婚姻とは異なり、当事者間には、単に、将来婚姻しようとの合意があるにすぎず、いまだ一体としての社会共同生活が営まれているわけではなく、両者の間に、いわゆる「財布が一つ」という関係が形成されるには至つていないから、婚約者を、夫婦と同様の意味において「身分上、生活関係上、一体をなす者」と評価することは適切でなく、被害者の婚約相手に過失の認められる場合であつても、民法七二二条二項にいう「被害者ニ過失アリタルトキ」には含まれないものと解するのが相当である。

6  賠償範囲の制限

被告会社は、被害者は第一衝突によつて既に瀕死の重傷を負つていたものであるから、第二衝突の加害者である被告会社の負担すべき損害賠償額は、同人を瀕死の重傷からさらに悪化させたという限度においてのみ認められるべきであると主張するが、第二衝突時に、被害者が既に瀕死の重傷の状態にあつた、と認めるに足りる証拠はない。

7  損害の填補

原告らは、それぞれ被告大井加入の自賠責保険により一二七六万四四四五円の支払を受けた(当事者に争いがない)ので、これを各損害から控除すると、江井博夫の損害額が一二八二万三八三七円、江井洋子の損害額が一一八二万三八三七円となる。

8  弁護士費用

諸般の事情を考慮すれば、原告らが本件事故と相当因果関係のある損害として求めうる額は、各一一〇万円と認めるのが相当である。

9  結論

被告株式会社吉良工務店は、原告江井博夫に対しては一三九二万三八三七円、原告江井洋子に対しては一二九二万三八三七円の支払義務を負うが、被告大井啓照は、右の金額からそれぞれ三割を減じたもの、すなわち、原告江井博夫に対しては九七四万六六八六円、原告江井洋子に対しては九〇四万六六八六円の各支払義務を負う。本件事故は、被告らの共同不法行為によるものといえるから、被告らは、被告大井啓照が原告らに対して負う損害賠償義務の額の範囲において、連帯して責任を負う。

(裁判官 清水悠爾)

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